鶯谷駅の直下は狭い路地に立ち並ぶラブホテル街なのだが、不思議なことに鞄を提げた営業マンらしき男たちが続々と通る。
こんなところを通っても近道にはならないと思うのだが、ラブホテルを顧客とする人たちだろうか。わけがわからない。いや、一番ワケがわからないのは、こんなところでコンデジ振り回していたわたしだろうか。
「駅前から少し離れた道路沿いの一郭には、昔からラブホテルが立ち並んでいる。チェックアウトの時間が過ぎて間もないため、それぞれの窓枠には赤や黄色のカラフルな枕が干され、風景にアクセントをつけている。
口をあんぐりとあけたまま眺めていると、後ろから「オニイサン」と声がとんできた。振り向くと、黒いアミタイツに赤いスカートの女が立っている。オニイサンというただ一言にあらゆる意味をこめる女は、粘りのある眼差しで微笑んでいた。・・・
だが、根が臆病者なので・・・足が勝手に動き、慌ててそのばを離れた。
今度は、先ほどとは違って少しバカにしたようなオニイサンという言葉が追いかけてきた」
鬼海弘雄『東京夢譚』第一話「期限切れの弁当とオニイサンと呼ばれた日」
これはすこし時代が違うようだ。