「皆中(かいちゅう)稲荷」とは奇妙な名前のお稲荷さんだなと思ったら、正統稲守とは関係なくて、鉄砲百人組のお稲荷さんだった。
由来は社伝では天文2年(室町時代)に遡るといっているが、なんというお稲荷さんなのか名前は伝わっていない。
というより、そもそもお稲荷さんではなかったらしい。
現在の皆中稲荷が出来たのは、鉄砲組みが江戸城西方の大久保(大窪)の地で守りに付いたときから。これは確からしい。
鉄砲組みの中のある落ちこぼれが、あるときこのお稲荷さん(その時はまだ稲荷社ではなく、わけのわからない異な神の社だったという)にお願いすると急に鉄砲が百発百中当たるようになったという。
それで鉄砲組みの連中がわれもわれも百発百中の願掛けに押しかけ、社殿を築いたところ、願い事は皆あたる(的中する)という噂が広まり、庶民も押しかけて繁盛し始め、現在では競馬、競輪、パチンコ、麻雀あらゆるギャンブルの神様となり、はては良縁成就、受験、宝くじの神様となった。
つまり始めはお稲荷さんではなく、願い事をよくあてる霊験あらたかな「異(い)な神」だったが、やがて「稲神(いなかみ)」となり、百発百中よくあたるので「皆中稲荷」となったらしい。
いかにも新宿の現世利益の代表のようなお稲荷さんで、老若男女の参詣が絶えない。
こんないい加減ないわれのお稲荷さんなのに、ご祭神は聞いて驚くな。
いまでは、な、なんと、「倉稲之魂之大神(うがのみたまのおおかみ=宇迦之御魂神、正統な稲の神様)、伊邪那岐(いざなぎ)大神、伊邪那美大神、諏訪大神、日本武命(やまとたけるのみこと)」と勢揃いだ~ッ!
どうだ、この豪華さ、このいい加減さ!
恐れ入ったか。(まさに恐れ入り谷の鬼子母神だ)
もっとも、正統稲荷といったってイナリの語源についてもハッキリせず、「イネナリ(稲成り、稲生り)」が「イナリ」だとか、お稲荷さんはなぜ「稲荷」と書くかについても「稲刈り」の「刈」が誤って「荷」になったとか、「イナニ(稲荷)」が「イナリ」に転訛したとか、正統お稲荷さんの方もハッキリしないらしい。
語源なんてハッキリしなくたって商売繁盛の神様だということはハッキリしているんだ。
それでいいのだ。